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美樹


 お兄様なんて言ってるが、美樹は妹ではない。
 物心付いた頃から隣に住んでいる、一つ年下の川嶋家の一人娘だ。
 親同士も仲が良く、お互い一人っ子と言うこともあって、小さい頃は本当の兄妹のようにしていた。
 夏休みには、一緒に美樹のおじいちゃんの所に、泊まりがけで遊びに行ったりした。
 家の両親は仕事が忙しかったので、よく、夕飯を川嶋家でご馳走になったもんだ。

 でも、大きくなるにつれて、美樹は、川嶋家の遺伝か、やたらとオレの世話を焼きたがるようになった。
 一時は、それを疎ましく思い、遠ざけようとしたこともあったけど、美樹はそれにもめげなかった。
 高校を卒業して、一人暮らしをしたいという理由から実家から離れた専門学校に通うようにしたが……
 一年後、美樹も大学進学と共に、オレの隣に引っ越してきた。
「孝典のこと、ヨロシクねぇ」
 という、うちの母親の言づてと共に。


 この暑さだというのに、市民プールは意外と空いていた。
 みんな、遊びに行くなら隣町のレジャープールに行ってしまうのだ。
「よぉし、久々に思いっきり泳ぐぞぉ」
 美樹は、やる気満々だ。
「ねぇねぇ、50m三本勝負で、負けた方がお昼おごるのってどぉ?」

 美樹は中学、高校と水泳部で、県大会にまで出場した実力の持ち主だ。
 一方、オレは水泳はおろか、スポーツ全般が苦手で、運動神経がない、とまで言われている。

「おいおい、そりゃぁないだろう?」
 情けない声をあげると、
「冗談だよぉ。 タカ兄ぃが私に勝てるわけ無いじゃない」
 にやっと笑って、
「今日は、私が誘ったんだから、お昼ぐらいはおごるわよ」
 ……それはそれで、情けない話だ……両方の意味で……


 プールサイドに上がると、美樹はもう準備体操をしていた。
「こらぁ、タカ兄ぃ遅いぞぉ」
「なんで、男のオレより着替えるのが早いんだよ?」
「え? だって、下に水着着てきたもん。」
「小学生か、おまえは?」
 あきれているオレに向かって、
「そんなこと、どうでも良いから、タカ兄ぃも準備体操しなよ、ほらほら!」
 と、オレの腕を引っ張る。
「えぇっ? 今時、小学生だって準備運動しないぜぇ?」
 と、恥ずかしがる、オレをにらみつけ、
「ダメダメ、何かあってからじゃぁおそいんだから。 とにかく、ちょっとストレッチを手伝ってよ」
 さすが、熱血スポーツ少女だ。

 美樹は小柄だが、水泳で鍛えられた引き締まった体に、出るところはそれなりに(?)出てるという、なかなか、良いスタイルをしている。
 顔も、身内(?)のオレから見ても、充分美少女の部類に入ると思う。
 高校のクラスメートには、
「おまえの彼女、かわいいよなぁ」
 と、よく言われたものだ。

 そんなことを考えながら、ぼんやりと美樹のストレッチの手伝いをしてると、
「じゃぁ、タカ兄ぃにもやってあげるよ」
 と、オレの腕に、しなやかな腕をからめてくる。
「ちょ、お、オレはいいから。 こら、何を、イデデデッ」
 軽々と、背中に乗せられてしまう。
「タカ兄ぃって、ホント、体カタイよね。 よぉし、私が鍛え直してあげるわ」
「い、いいから、や、やめ……アダダ、まぢ、死ぬ……」
「大げさねぇ。 まだ、準備体操じゃない。 覚悟しなさい」
「な、なんだその、覚悟って。 こら、ぅぎゃぁ」
 だから、美樹と出かけるのって、嫌だったんだ……

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